構造データが武器に変わる─タンパク質機能の“理論予測”による創薬・素材開発の革新

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研究タイトル:構造データに基づくタンパク質機能予測技術
研究機関:東京大学 先端科学技術研究センター
研究者:石北 央 教授
参考文献:https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/content/000011530.pdf

想定される読者
・製薬・バイオ企業でターゲットスクリーニングの効率化を検討している事業開発・研究責任者
・自社保有の構造データを有効活用し、新たな事業機会を開拓したい技術戦略担当者
・再生可能エネルギー、食品加工、診断技術分野で分子設計を加速したい企業リーダー

豊富な構造データを活用したタンパク質の機能予測により創薬や材料開発を迅速かつ高精度化

 創薬やバイオ産業では、タンパク質の構造を理解することが、薬や素材が「どこにどう効くか」を設計する第一歩とされています。このとき欠かせないのが、世界中の研究者が参照する「PDB(Protein Data Bank)」というタンパク質の立体構造データベースです。PDBには、2023年時点で約20万件もの構造情報が登録されており、製薬企業やバイオ系スタートアップでは、新薬候補の探索や酵素の反応部位設計に活用する動きが広がっています。
 本来であれば、こうした構造情報を出発点にして、タンパク質の触媒活性や電子移動能といった機能特性を定量的に予測できる仕組みが整えば、製薬・化学・食品・エネルギー分野における探索のスピードと精度は飛躍的に向上します。構造ベースの設計アプローチが進化すれば、開発期間の短縮、研究投資効率の改善、そして競争優位性の早期獲得が可能になります。

構造データ活用に向けた機能特性予測手法の確立
機能予測技術の確立
研究シーズ タンパク質分子構造からのタンパク質機能の理解

 第一原理計算や分子軌道法を活用し、タンパク質の立体構造から触媒活性や電子状態などの機能特性を理論的に予測する技術を開発しました。この技術は、既存の構造データベース(PDBなど)に蓄積された情報をもとに、候補分子の機能的ポテンシャルを数理的に評価・スクリーニングすることを可能にします。
 これにより、ターゲット探索の工程を大幅に効率化し、探索精度の向上と開発期間の短縮を実現できるポテンシャルを持っています。
 適用領域は創薬にとどまらず、バイオ触媒開発、再生可能エネルギー材料設計、食品加工、診断技術、環境センシングなど、幅広い分野に拡張可能です。

構造データは豊富にあるが機能予測への活用が途上

 PDBをはじめとした構造データベースには、年々膨大な数のタンパク質構造が登録されています。X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡といった解析技術の進歩もあり、構造データそのものの蓄積は飛躍的に進みました。また企業の内部でも、独自に取得した構造情報を活用しようとする動きは高まっています。とはいえ、現時点での活用は主に「構造の比較・閲覧」にとどまっており、機能特性の予測にはほとんど活かされておりません。

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